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「Ruby で Ruby を作りながら Ruby を学ぼう!」という ascii.jp の連載、おかげさまでほぼ予定通りに無事に終わりました。執筆の経緯を書いておきます。
昨年の 6 月ごろ、「抽象によるソフトウェア設計」や「型システム入門」のときにおせわになった編集者の鹿野さんに声をかけて頂きました。「ふつうの Ruby 入門はもうたくさんあるので、ちょっと変わった Ruby 入門を書けないか」という話でした。
それを聞いた瞬間、「Ruby インタプリタの開発を通して Ruby を学ぶ」という構想が湧きました。Ruby は主に Web やテキスト処理を対象としているので、言語処理系や記号処理を題材にした入門は目新しそうだし、なによりそういうのに興味を持つ Ruby ユーザがもっと増えてほしい。
「○○言語で○○言語のインタプリタを作る入門」は、Lisp や ML ではわりと普通のことです*1。「インタプリタの実装」というと何やら難しそうですが、言語のサブセットの切り出しさえうまくやればそんなに難しくないのです。
とはいえ、さすがにプログラミング言語をまったく知らない人向けの題材としては重すぎるかな?という不安はあったので*2、まずは自分でインタプリタを書いてみました。言語のサブセットの取り方を試行錯誤しながらでしたが、数時間くらい、ソースコードにしてたった 100 行強でブートストラップできたので、大丈夫な気がしてきました。個人的に盛り上がってきたので、そこから 1 週間で全 8 回(当時)の原稿をすべて書き上げました(なおこの時点では連載は決まっていない)。
それから無事に 1 か月後くらいに連載が決まり、9 月中旬に連載開始となりました。連載は隔週で、すでに書き上げた原稿を鹿野さんが膨らませ、@hirekoke さんが挿絵を入れて出す、自分はそれを見守る、という体制。のはずでしたが、説明方法や説明順序を調整したのでそんなに楽ではありませんでした。ちょっと説明方法や構文木を変えただけのつもりでも、後から整合性を取るのが苦しくなるとか。関数の回を前後編に分けることになったので当初より全 9 回になりましたが、それでも基本的には予定通りに進むことができました。
少し心残りなのは、字句構文解析を完全に省いてしまったところです。言語処理系の教科書と言うと、まずは字句構文解析の小難しくて面白くない説明(※個人の感想です)がダラダラ続くんですよね。そこより先に言語処理系のおもしろさがあるのに、多くの人が脱落してしまうのはもったいないと思っていました。ただ、字句構文解析がないとオレオレ言語の開発はできないし、ブートストラップも完全とは言い難い。まあ、この連載は言語処理系開発の入門ではなく、あくまで Ruby 入門の題材として言語処理系を扱うということで、妥協しました。いちおう MinRuby の再帰下降解析のパーサ(これだけで 100 行強)は書いたので、そのうちどこかで書きたい。
ということで、『Ruby で学ぶ Ruby』を楽しんで頂けたなら幸いです。公開が停止するわけではないのでまだ読んでないなら今からでもぜひ。
あと、「これで Ruby はだいたいわかった!」という気になったら、拙著もどうぞあわせて読んでください。Ruby プログラムのサンプルがいっぱい載っています。