経度 0° の本初子午線はイギリスのグリニッジ天文台を基準に決められたもので、世界標準時 (UTC+0) の起点となっています。
ここから東西 15° ごとの合計 24 本が「標準時子午線」と呼ばれます。ほとんどの国・地域はいずれかの標準時子午線を自国の標準時の基準にしています。
日本の標準時 (UTC+9) は東経 135° の標準時子午線に基づいていて、これが兵庫県明石市を通ることはよく知られています。「なんで明石?」と思ったこともありますが、たまたまグリニッジ天文台から 135° 東の位置にあったからです。
ところで、自国の領土に標準時子午線がまったく通っていない国もしばしばあります。有名どころだとオランダ・スイス・イスラエル・ニュージーランド、日本の近くだと韓国などです。まあ、標準時子午線が通っていないことの実用上の困りごとは特にないようですが。
本題
ふと気になりました。もしグリニッジ天文台がもう少し東、または西にあれば、より多くの国・地域が標準時子午線を持てていたんじゃないでしょうか。
確かめたくなったので、ちょっとおもちゃを作ってみました。

地図を左右にドラッグすると、画面の中央に固定された赤い線 (本初子午線) を任意の経度に合わせられます。これに連動して、何カ国・地域にいずれかの標準時子午線が通っているかが即座に表示されます。地図の下には地域別の国名一覧もあって、カバーされている国は緑、そうでない国は薄い赤で色分けされます。
結論
地球全体に 258 の国・地域 (Natural Earth の 1:10m Admin 0 - Countries 基準) があって、現行のグリニッジ基準だとそのうち 104 か国・地域に標準時子午線が通っています。
もしグリニッジ天文台がいまの位置から西に約 87 km、英国南部のハンプシャーかバークシャーあたりと同じ経度にあったら、109 か国・地域まで増やせていたようです (現行の西経 1.250° を 0° にしたケースに相当)。
逆に、もしグリニッジ天文台がいまの位置から東に約 280 km、北フランス〜ベルギー国境付近と同じ経度にあったとしたら、85 か国・地域にしか通らなくなっていたはずです (現行の東経 3.976° を 0° にしたケース)。グリニッジ天文台が北海上になくてよかった(?)。
つまり、グリニッジ天文台の位置は最適 (109) からマイナス 5 でしかなく、結果的にはかなり最適に近い場所にあったということがわかりました。
AI コーディングエージェントのおかげでどうでもいい疑問を調べるのが大変容易になった。すばらしい時代だなあ。
おまけ 1
グリニッジ天文台をイギリス内で 0.001° 刻みでずらす全探索をしてみたところ、109 が達成される位置はおおよそ 5 つありました。
| 本初子午線の候補 | その場合の日本の標準時子午線 |
|---|---|
| 1.332°W 付近 (ニューベリー駅付近) | 133.668°E (岡山県倉敷市玉島) |
| 1.316°W 付近 (ニューベリー駅の東 1 km) | 133.685°E (岡山県倉敷市船穂) |
| 1.250°W 付近 (サッチャム駅の東 1 km) | 133.750°E (岡山県倉敷市中心部) |
| 0.651°W 付近 (アスコット駅の東 1 km) | 134.349°E (兵庫県佐用町役場の西 500 m) |
| 0.524°W 付近 (ステインズ駅の西 1 km) | 134.477°E (兵庫県相生市役所の東 400 m) |
「Most covered」ボタンはどれを選んでもカバー数 109 は同じなのですが、なんとなく 3 番目の西経 1.250° を採用しました。
おまけ 2
グリニッジ天文台を本初子午線に定めたのは 1884 年の国際子午線会議で、他にもいくつかの候補が議論されたそうです。それぞれを 0° に採用していた場合のカバー数は次のとおりでした。
| 候補 | 経度 | カバー数 |
|---|---|---|
| ナポリ (伊) | 14.26°E | 107 |
| ギザの大ピラミッド (埃) | 31.13°E | 105 |
| グリニッジ (英) | 0.00° | 104 |
| ベルリン (独) | 13.40°E | 103 |
| ウィーン (墺) | 16.34°E | 102 |
| リスボン (葡) | 9.18°W | 101 |
| フェロ (歴史的・カナリア諸島) | 17.66°W | 100 |
| ワシントン (米) | 77.07°W | 100 |
| プルコヴォ (露) | 30.33°E | 99 |
| ローマ (伊) | 12.45°E | 98 |
| パリ (仏) | 2.34°E | 96 |
| カディス (西) | 6.21°W | 96 |
| コペンハーゲン (丁) | 12.58°E | 96 |
| エルサレム | 35.24°E | 96 |
| ストックホルム (瑞) | 18.06°E | 95 |
| アゾレス諸島 (葡) | 25.67°W | 92 |
| クリスチャニア / オスロ (諾) | 10.72°E | 91 |
| ベーリング海峡 (中立案) | 169.00°W | 89 |
ナポリだったらもう少しよかったようです。会議の議事録を読むと、フランスは「特定の国を意味しない中立案」としてベーリング海峡やアゾレスを推していたそうですが、地理的中立性は確かに高いものの、カバー数で見ると下位グループに入ります。
なお、言うまでもないですが、1884 年当時は国の数も形もいろいろ異なるので、完全に荒唐無稽な話をしています。