π計算のπは、λ計算のλからギリシャ文字順に選んだそうです *1 。僕も "process" の p だと思ってました。では、λ計算はなぜλなのか。λはアルファベットの l の祖先ですが、"function" には l は現れません。これは学生時代に調べたことがあって、答えは表記の変遷の中にありました (?)
以下 [1] によります。まず、パラドックスで有名なバートランド・ラッセルは、x を受け取って 2x+1 を返す関数を次のように書いていました。
つまり仮引数の上にハットを置く。これにちなんで、λ計算の生みの親であるアロンゾ・チャーチは次のように書きました。
しかしチャーチの文章を出版するとき、当時の印刷技術ではハット付きの文字が印刷できなかった (!) ので、
^x.2x+1
と写植屋さんが書き換えてしまいました。さらに、これをみた別の写植屋さんが ^ をλと勘違いしてしまった (!!) ため、
λx.2x+1
という今の表記が生まれたそうです。つまりλ計算の由来は「当時の印刷技術の制限」+「誤植」である、と。面白いですね *2 。
というのが、数年前に研究室にいたときの調査結果 *3 だったのですが、[2] によると、生前のチャーチが「理由は特にない」と言っていたという証言や、出版前のチャーチの手書き原稿にλがいっぱい書かれていたという目撃情報もあるようです。都市伝説みたいなものかもしれません。
[1] H. Barendregt, The Impact of the Lambda Calculus in Logic and Computer Science (182 ページ)
[2] F. Kamareddine, T. Laan, R. Nederpelt, Types in Logic and Mathematics before 1940 (196 ページの脚注部分)